昔話のきのこ

昔話に登場する
きのこのはなし

昔の人々にとって「きのこ」とは得体のしれない生き物という印象が強かったのかもしれません。独特の姿形、他の食べ物にはない味、歯ごたえ、ぬめり。体の調子を整える成分を持っていたり、毒成分を持っていたり。気が付けば庭木や縁側、芝生や畑にひょっこり顔を出していたり。一方で、きのこは身近で親しみのある生き物だったようで、様々な文献にきのこが登場しています。

「今昔物語」に登場する
きのこのはなし

「今昔物語」は、1000話以上に及ぶ説話集で、12世紀初頭に作られたと言われています。その中の1つを紹介したいと思います。この話には2種類のきのこが登場します。世界的に有名な食用きのこ「ヒラタケ」と、非常に有名な毒きのこ「ツキヨタケ」です。ツキヨタケは、ヒラタケやシイタケと形が似ているため誤食が多いことで知られています。

比叡山(文献中では金峰山)の寺に住むお坊さんが、出世のために上司をきのこで毒殺しようと企む話です。主人公のお坊さんは、ツキヨタケをヒラタケだと偽って上司のお坊さんに食べさせます。しかし、上司のお坊さんは特異体質だったのか毒が全く効かず、さらには「実においしいツキヨタケだった。」と言って去り、主人公は「さては、ばれていたのか。」と腰を抜かす、という話です。

今昔物語にはきのこが登場する話が5つありますが、うち4つが毒きのこがらみです。 きのこは美味しいけれど毒もある、という認識を持った人がこの時代にすでに多くいたということが伝わってきます。

狂言「茸(くさびら)」に
登場するきのこのはなし

流派によっては「菌(くさびら)」と表記するそうです。内容は、山伏ときのこの化け物の戦いを描いた話です。

庭に生えてきた巨大なきのこを退治しようと山伏を呼びますが、きのこの増殖が抑えられず最後には逃げ出してしまった、という話です。劇中にきのこ退治のために「茄子の印」なるものが登場しますが、昔話ではしばしば「きのこの毒消しには茄子がよい」という迷信が登場してきます。「茄子で毒消し」いうものには全く根拠はありませんのでご注意ください。

この作品では、きのこが得体のしれない化け物として、コミカルに描かれています。雨が降ったり、木を切ったりすると突然にきのこは姿を現します。そのような不思議さやたくましさからこのような話ができたのかもしれません。この作品は、絵本にもなっていますし、YouTubeでも鑑賞することができますので、ぜひご鑑賞ください。

現代の小説に登場する
きのこのはなし

柴田よしき著「桜さがし」というミステリー連作短編集の第一話「一夜だけ」に、きのこが登場します。この話の鍵を握っているのが「ササクレヒトヨタケ」というきのこです。

ミステリーなので詳しい内容を書くことはできませんが、ササクレヒトヨタケの仲間のきのこは、ヒトヨ(一夜)の名前の通り、生育したら一夜で溶け落ちてしまう儚い性質があります。この一遍では、その特殊な性質が話に深く関わっています。作品全体の中では他にもナラタケやムキタケ、ブナハリタケ、マニアックなところではオニタケというきのこも登場します。さらにはきのこ鍋まで登場するので、作者は相当きのこ好きかもしれません。

ところで、このササクレヒトヨタケですが、非常においしいきのこで、作品中でも茹でてマヨネーズをつけて食べるシーンが登場します。栽培している方もいて、フランス料理店のソテーに入っているのを見たことがあります。ただし、近縁のきのこで酒と一緒に食べると当たるものがありますので、食べ合わせにはご注意ください。

海外の物語に登場する
きのこのはなし

海外でも、物語にきのこが登場しています。その1つ、ルイス・キャロル著「不思議の国のアリス」は有名です。作中では、アリスがきのこを食べると背が伸びたり縮んだりするシーンが登場します。まるで、某テレビゲームのキャラクターのようですね。海外でも、きのこは不思議な存在であるようです。

ジョナサン・サフラン・フォア著「ものすごくうるさくてありえないほど近い」という小説の原文には、なんとシイタケが登場します。ただし、姿が登場するのではなく、スラングとして登場します。主人公の少年が「シイタキッ(SIITAKE!)」という悪態をつくそうです。なぜシイタケがこのような扱いになってしまったのかを調べたところ、諸説あるのですが、音の似た別のスラングを言いたいときにごまかして使う、というのが有力です。使われ方としては複雑な気分ですが、シイタケが世界に進出している例としては面白いと思います。この小説、実は映画化もされておりまして、私はまだ観ていませんが、映画のセリフでもシイタケが登場するらしいです。興味ある方はぜひご鑑賞ください。

参考文献・資料一覧

  • ①作者不詳 今昔物語
  • ②狂言「茸」(くさびら)https://www.youtube.com/watch?v=Pp8CGVi9JXc
  • ③柴木よしき 桜さがし 集英社文庫
  • ④ルイス キャロル 不思議の国のアリス
  • ⑤小川 武廣 きのこの今昔(きのこの文化史をひもとく)
  • ⑥ジョナサン・サフラン・フォア ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
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