きのこと虫

きのこと虫のはなし

きのこにとって虫とは捕食者であり、胞子の運び屋であり、食べ物でもあります。逆にきのこは虫にとって食べ物であり、住居であり、場合によっては捕食者でもあります。このように、きのこと虫は絶妙なバランスを途方もない年月をかけて構築してきました。

害虫としての虫のはなし

きのこ産業にとって虫類は天敵といっても過言ではありません。きのこを食害し商品価値を失わせたり、菌床を食害し収量を減少させたり、きのこが無事でも商品の中に潜り込んでクレームの対象にもなります。また、虫類はダニや雑菌の運び屋でもあり、これらによる被害を拡大させることもあります。虫害の対策としては「虫を施設内に入れない」「施設内で虫を殖やさない」を基本としています。施設内を清潔に保ち、菌床カスやきのこ片など虫の温床になるような腐植類をハウス内に溜め込まないこと、そして、常に高湿度にするのではなく新鮮な空気を入れて乾くタイミングを設けることで、害虫の発生を予防することができます。

○キノコバエの仲間

キノコバエの仲間はきのこの食害、菌床の食害、害菌やダニなどの媒介、製品への混入など様々な害を与えます。発生の予防策としては、防虫ネットによる侵入防止と、傷んだ菌床を速めに処分し繁殖場所を与えないことが挙げられます。発生した場合の対策としては、成虫は粘着シートや誘因捕虫器による捕殺、また、発生室を乾燥させることによって死滅させられるとの報告もあります。幼虫の対策には浸水処理、マッシュクリーンなどによる熱水処理(60~65℃1秒以内)が有効です。

2017年日本きのこ学会で森林総合研究所のグループから、ナガマドキノコバエの幼虫に寄生するハエヒメバチに関する報告がありました。ナガマドキノコバエは、シイタケ栽培で問題となっている害虫です。発見された寄生バチは、ナガマドキノコバエの幼虫に産卵します。寄生された幼虫が死に至る確率は90%に達するそうです。つまり、寄生バチの産卵によってキノコバエの増殖を抑制することができます。あくまで実験室レベルでの試験ですが、この寄生バチは一日あたり百個以上の卵を産む個体もいるとのことでした。まだ生態的に不明な部分も多いのですが、害虫対策として新たな可能性が見出されています。

○ダニ類

ダニ類もきのこ栽培に深刻な被害を与えます。きのこの食害、菌糸の食害、雑菌の媒介、製品への混入、ダニを食べるダニ種による人体への影響などがあります。発生の予防策として防虫ネットなどによるダニを媒介する虫類の侵入防止、傷んだ菌床を速めに処分し繁殖場所を与えないことが有効です。発生した場合の対策としては、発生した菌床の速やかな処分と、他のダニ被害のない場所へダニを広げないよう発生棟毎に用具や作業着や靴を使い分けるなど伝播防止策を講じる必要があります。50~80℃の湯に触れることにより衰弱あるいは死滅させることができるため、湯散布はある程度の効果はありますが、菌床の起伏に隠れて湯が届かないこともあり、決定的な対策にはなりません。低温状態(7℃以下)や乾燥状態にすることで繁殖を抑制することも可能ですので乾燥気味に管理することで繁殖に歯止めがかけられます。一度発生してしまうと対処が難しくまだまだ課題の多い害虫の一つですので、先に記した発生の予防策の方に重点を置いて対処をお願いします。

○その他の害虫

他にも、ナメクジやトビムシ、アツバ、ガガンボなど様々な虫たちがきのこ栽培現場の害虫として猛威を振るっています。

胞子の運び屋としての
虫のはなし

類がきのこを形成するのは胞子を散布するためであり、ある種のきのこにとって虫は害虫ではなく、胞子の散布(=自分の子孫繁栄)に欠かせない存在となっています。

「スッポンタケ」というきのこの仲間は、ものすごい臭いで虫をおびき寄せ、胞子を舐めに来た虫の体に胞子を付着させ生息範囲を広げます。この際、きのこは様々な虫に食べられ無残な姿になりますが、目的が果たせれば後はどうなろうとお構いなしなのです。

「ヒトクチタケ」という変わった名前のきのこがあります。饅頭のような姿をしており、一口で食べられるからヒトクチタケという名前がついた、というわけではありません。きのこの裏を良く見ると、1つ孔(口)が開いています。これが「ヒトクチ」の由来です。この穴をくぐると中が部屋のようになっており、その部屋の天井は胞子を形成する菅孔で構成されています。このきのこは松の枯木に発生するきのこで、煮干しのような独特の臭いを発しています。この臭いに惹かれた昆虫が裏側の穴から入り込み、中で胞子まみれになって外へ出ていくことで胞子を散布させるという戦略をとっています。

栄養源としての
虫のはなし

きのこの中には虫に寄生して栄養源として生きている種類がいます。有名なところでは冬虫夏草の仲間が挙げられます。冬虫夏草とは本来は中国で採取される「シネンシストウチュウカソウ」を指しますが、広義には昆虫などから生じるきのこ全般を指します。まるで生きているように見える虫からきのこが生えている姿は不気味な様であり、また自然の神秘を感じられるようでもあります。

アリタケの仲間には寄生したアリ(=以下ゾンビアントと呼ぶ)の行動をコントロールしているという説があります。本来は地面付近にいるはずのアリ達が、アリタケが発生する時には必ず地面から離れた葉の裏や枝の先にいるというのです。その際、ゾンビアント達は地面に落ちないように顎でしっかりと葉や枝に噛みついて体を固定しています。このような場所で息絶えることにより、寄生したアリタケは効率的に胞子をばらまくことができます。

冬虫夏草について興味を持った方はぜひ日本冬虫夏草の会編集の「冬虫夏草生態図鑑」を読んでみてください。写真が多く説明が易しいので初めての方でも読みやすい一冊です。なお、虫からきのこが発生している写真が数多く載っておりますので小さいお子様や虫が苦手な方の閲覧は注意が必要です。

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